雑記

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言式 解なし 感想

10/29(日)俳優の梅津瑞樹さんと橋本祥平さんの演劇ユニット「言式」の立ち上げ公演、「解なし」を観てきました。千秋楽でした。

 

内容のネタバレあります。全部個人が感じたことなので、解釈違ったら許してください。

 

本公演の会場の銀座博品館劇場は、落語の独演会で何度か足を運んだことがある。銀座ライオンの前に位置する、レトロな小劇場だ。

落語の時は落語家は高座に上がるため、座席の高低差はあまり障害にはならない。また落語は耳から入る情報と、目から入る情報、表情、仕草、音、声の調子、どれも重要なので、オペラグラスが要らない狭い会場の方がストレスなく見られる。

落語の好きなところは、落語家がいれば場所と時間を選ばずできることでもある。体一つで魅せる世界が好きだ。見えなくても想像で情景が広がる時間が好きだ。

本公演解なしは、そんな落語に通じるものを感じた。梅津さんと橋本さんの体一つで演じられるエネルギッシュな演技は、博品館という舞台にぴったりはまっていたと思う。

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梅津さんを知ったのは舞台刀剣乱舞だ。その後ソロ演劇や虚構の劇団公演など、普段2.5ばかり観ている私だが、楽しく観劇している。一番好きな役は極上文學の桜の森の満開の下の、冴えない女房だ。私は趣味と言えるほど沢山観劇できていないが、梅津さんの百面相のお芝居は好きだ。見ていて楽しい。

今作は脚本も梅津さんとのことで、非常に楽しみだった。約90分間のオムニバス形式のお芝居。

最初に見せられたある二人の男女の生涯は、台詞がない。ドラマのようにべたかもしれないが、ひょんなことから出会い、プロポーズ、出産、年老いても仲睦まじく、最期まで寄り添う夫婦の一生だ。短時間だが、じんとくる。

しかし私は結婚できないタイプの人間であるため、正解の人生だな〜と勝手に寂しく感じていた。

互いを思い遣り生涯を共にする、幸せな男女の姿。私には無縁である。他人事この上ない。

近頃長年の付き合いの友人が結婚して勝手に寂しく思っていたり、絶対子ども育てるなんて無理〜と言っていた友人が優しいママになっている姿を見て、私というしょうもない人間の人生とは...と思い悩んでいた私には耳にも目にも心にも痛い内容である。

この男女の一生のシーンはセリフがなく、「あ」しか発しないため、なんとなく動物っぽいな〜と感じていたが、内容は人間としてお手本のような素晴らしい一生だ。性別も年齢も違う女性の生涯を「あ」の一言で演じる橋本さんか素晴らしかった。

しかしこの後に展開されるオムニバス形式のお芝居が、私には共感に溢れていた。

冒頭の夫婦のような、正解を生きられない、さまざまな人間模様が描かれる。

心の中ではどこか諦めながらも夢を見続けるバンドマン、無職の身でつい良い仕事についていると嘘をついてしまったり、お金持ちだが本当に欲しいものがわからない人、仕事もお金もない上図々しい人。

子供の頃に同級生から褒められたことが忘れられず、子供の頃の心持ちのまま田舎に留まり、カブトムシやセミの抜け殻を集めている。田舎を出て大人になっていく同級生を僻み、八つ当たりする。しまいには拘束して蝉の抜け殻を体中にくっつけようとする。ホラーだよ。

 

いやでもめちゃくちゃ分かる〜〜私これ〜〜!!私も友達が知らないうちに大人になってたのめちゃくちゃ怖いし僻むしつらい〜〜分かる〜〜〜!!!

梅津さんが演じる「田舎に残った大人になれない男」が幼稚で絶妙に気味が悪くて、でも私これだな〜と思っていた。みんないつの間に大人になったの?

とある刺身にたんぽぽを乗せる工場で働く男性達は、ベルトコンベアに(物理的に)逆らいながら世間への不満を叫ぶが、心の中では自分が秀でていない人間だという自覚があり、急に卑屈になり、お互いにお互いよりはマシだと見下して自尊心を保ってみたり。分かりすぎてもう...

演技はコミカルで、橋本さんは売れないバンドマン、梅津さんが高齢の工場長と、幼稚な同僚の二役だった。

面白いし、笑えるし、二人の間合いが絶妙なので本当に一度見て欲しいのだが、なんせ前述の如く私は卑屈な人間なので、割かし笑えず心の中では冷や汗ダラダラかいていたと思う。このお芝居もう一度見たいな。舞台装置は白いブロックのみ、小道具はたんぽぽの花びらだけなのに工場にしか見えない。パントマイムで何をやっているのか見るだけで分かる、漫画ガラスの仮面を思い出した。

最後はオムニバスの結びとして、梅津さん橋本さんの関係性そのものをシナリオにしたのかな?とにかく美しい終わり方だった。ミッキー(梅津さん?)としょうちゃん(橋本さん?)の思い出の劇場が取り壊しとなってしまう。しょうちゃんにお芝居を褒められたミッキーが、名残惜しみ劇場に留まるが、容赦なく劇場は破壊される。舞台のセットが爆風と共に客席側に倒れ、粉塵(紙吹雪)が客席に舞った。

現地は本当に爆風が凄まじく、私は後方席だったか紙吹雪が飛んできた。

この演出は言い表せない寂しさと爽快感をくれた。序盤の正解の人生とその後に続いたさまざまなうまくいかない人生模様を観て、なんとなく卑屈な気持ちになっていたが、紙吹雪と共に吹っ飛んでしまった。

 

とにかく良いお芝居だった。語彙力。

 

私は宝塚のような豪華絢爛なセットと衣装も好きだが、小劇場で体と少ない小道具で魅せるお芝居が、こんなに楽しいとは思わなかった。

カーテンコール、梅津さんと橋本さんの晴れやかな笑顔が見られ、今作は円盤にはならないが、パワーアップした再演や、次回作ができれば、というお話をされていた。絶対見たい。

終演後、名残惜しく博品館の階段の長い螺旋階段を降りて、銀座を歩いて帰った。

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人生色々だけど、もうちょっとだけ頑張ってみようかな、と思う。とても爽快な気分だった。

 

このお芝居を劇場に観に来られて良かった。楽しかったな。お芝居っていいな。